アグロエコロジー
唐突ですが、アグロエコロジーという言葉を聞いたことはあるでしょうか?
ぼくは前にちらっと見かけたことがあった(たしか博士課程入試の頃でした)のですが、その時はろくに調べないで放置してました。
この記事のきっかけは、いま滞在している INRA がこの「アグロエコロジー」を方針の主軸の一つに掲げてると聞いたことです。しかもお世話になっているもう一つの機関である CIRAD も、このアグロエコロジーを推進しているようです。「アグロ」と「エコロジー」の組み合わせは一見ありふれているように思えますが(そういえば日本でのぼくの専攻名は Agricultural and Environmental biology なので惜しい感じですね)、一語にまとまっているのは意外に「そういうのもあるのか」という感じ(そして「ああ、どうせまたそういうやつね」とも思ってしまう感じ)。
https://en.wikipedia.org/wiki/Agroecology
とりあえずWiki。
さらに日本語で検索をかけてみました。
ところが、引っかかってくるのは特定の企業(?)サイトがメインで、あとは雑誌『ふらんす』の特集告知(多分ぼくはこれを読んでいた)とか、ちらっと単語が出てくるだけのものだったりであまり芳しくありません。くだんの企業サイトの説明はどちらかというと緑の革命とか遺伝子組み換えの「欠点」ばかりで、やっぱりアグロエコロジーは分からない。そのなかでは以下に引用するブログは比較的バランス取れた記事だと思うのですがいかがでしょうか。
tobitate-sanfrancisco-cuba.hatenablog.com
結局、個人的に一番簡潔で分かりやすかったのはやはり INRA と CIRAD の記事でした。
En tant que discipline scientifique, l’agroécologie est souvent présentée comme le croisement des sciences de l’écologie et de l’agronomie en appui à la conception et à la gestion d’agro-écosystèmes durables. Elle mobilise également les sciences économiques et sociales pour concevoir des systèmes multi-performants et accompagner leur déploiement par des politiques publiques et d’accompagnement adaptées. Elle dessine ainsi un nouveau paradigme pour concevoir des systèmes alimentaires durables.
「自然科学の分野としては、アグロエコロジーはしばしば生態学と農学の交差点とみなされ、持続可能な農―生態システムの構想と運営を立脚させます。さらに多角的に機能するシステムを構想し、適切な公共政策と援護によりその展開を実施させるために、経済学および社会科学をも動員します。このようにアグロエコロジーは持続可能な食糧システムの構想のための新たなパラダイムを描き出します。」
(フランス語からざっくり翻訳したので精度は期待しないでください。意訳も含みます。より良い訳が作れる方が見ていたらぜひアドバイスを…)
この後に5つの研究方針が続きます。
- valoriser la biodiversité et les régulations biologiques
- optimiser les grands cycles biogéochimiques
- gérer les paysages et les territoires
- évaluer et reconcevoir les systèmes de production
- repenser les systèmes d’innovation et accompagner les transitions
「生物学的調節機構と生物多様性の価値の引き上げ/生物地質化学的循環の最適化/領土と景観の管理/生産システムの評価と見直し/イノベーションシステムの再考と(アグロエコロジカルな状態への)移行の実施」
(ここでも上と同じ泣き言が付きます)
なるほど得心がいきました。フランスのスーパーには BIO マーク(国認定の有機作物由来食品の証)つきの食品がずらっと並んでいます。ここからは有機農業への関心が高いことがうかがえますが、アグロエコロジーは単なる有機栽培を超えていわば「より一般的で柔軟なアプローチ」で農と自然の調和を構想していると言えるのではないでしょうか。そうだとすれば個人的にはスマートな主張だと感じるし、共感する部分も少なくありません。先日紹介した Pl@nt net もそういった背景で眺めると一貫性を感じます。
たしかに、日常生活にかけがえのない「食」と生態系のあいだに連続性があると捉えれば、こういったプロジェクトは市民主体でなされる必然性があります。このプロジェクトとアグロエコロジーの関係は今後掘り下げても面白いかもしれません。
……翻って、日本語の記事をまた探してみると、どうも善悪二元的というか、軽薄というか、「貧しい議論だなあ」と感じるものも目につきます。アグロエコロジーというより「エコ」全般について気をつけねばならない点なのかもしれませんが、「自然の複雑さ」や「自然に任せることによって得られる豊かさ」を賛美している割には、内容は単調かつ力任せということもしばしばのようです。少なくとも INRA の記事をざっと読む限り、必ずしも既存の農業システムを「仮想敵」に仕立てる必要はなく、現状の評価に基づく仮説から長期スパンでの「最良」の選択肢をとるというのがその規範となるはずだと思うのですが…。
最後は皮肉になってしまいましたが、なんにせよ、こういう情報は少しでも耕していくべきでしょう。またいずれ「アグロエコロジー」については取り上げたいと思います。