滞仏植物記

植物のかたちを研究する学生のフランス滞在日記

Le Bleuet de France

ご存知の通り、ユーロ硬貨のデザインは国によって異なります。例えば、フランスの 2  ユーロは「自由・平等・友愛」の象徴。ほかの国では(どこだったか忘れました)君主の肖像とか、あるいはそれそれの文化に由来する事物が刻まれています。

それなりに色々なデザインを見てきたつもりだったのですが、ふと、見慣れない意匠のものが財布に紛れ込んでいるのを見つけました。

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[Le Bleuet de France, fleur de mémoire et de solidarité]

 

マークを取り囲む文字はフランス語ですが、おなじみの「自由・平等・友愛」ではありません。さりとてこれは間違いなく 2 ユーロ。要するにこれは記念硬貨です。中央に大きく描かれているのは Le Bleuet つまりヤグルマギク Centaurea cyanus 。非常に美しい青い花です。さらに画像右側には 1918-2018 とあります。間違いなく年号でしょう。2018 ということは、つまり今年発行された物であるようです。では 1918 は?そしてヤグルマギクとの関連はどこにあるのでしょうか?

 

そもそもヤグルマギクはフランスを象徴する花でもあります。ただしいわゆる国花とは少し違う位置づけです。というのはフランス国旗において「自由・平等・友愛」を意味する「青・白・赤」それぞれの色に対して「ヤグルマギク・マーガレット・コクリコ(ひなげしの意)」を充てることがあるためです。これらの 3 種はフランスの農地によく見られる植物で、素朴でノスタルジックな原風景…のような含みもあるのかもしれません。というわけで最初はそういった由来から「自由」担当のヤグルマギクが何らかの理由で前に出てきたか、もしくは実は三枚一組になっている、というような可能性を考えていました。しかし取り囲んでいる文言や 1918 との関係が不明です。

では 1918 と併せて検索をかけてみたらどうか?ビンゴでした。1918 とは第一次世界大戦終結――正確にはドイツが休戦に応じた年――でした。そしてヤグルマギクは戦争の犠牲の象徴であるそうです。この硬貨は終戦から100周年を記念してつくられたものだったのですね。

Bleuet de France — Wikipédia

曰く、「花言葉においてヤグルマギクは繊細さや内気を象徴し、繊細でか弱く純真な心持のメッセンジャー」であり、同時に「大戦中絶えず砲弾によって掘り返される大地から生え続ける」「塹壕の唯一の彩りであり生命の証」であった、とその起源が説明されております。つまり『この世界の片隅に』において(これもまた世界大戦の物語です)タンポポの花がそうであったように、フランスでヤグルマギクと言えば「力強く生きようとする名もなき命」の象徴なのですね。そういえばフランスには戦没者慰霊の碑があちこちにあります。今通っている農学校にもあります。そして碑には散華した人々の名前がみな刻まれています。

 

取り囲んでいる文字列を改めて訳しておきましょう

 Le Bleuet de France, fleur de mémoire et de solidarité

「フランスのヤグルマギク、団結と記憶の花」

 

こういう話がでてくると植物の文化史を調べていて面白いなあと感じます。何気なく財布に紛れ込んだコインの図像から文化の底に横たわっている思いを垣間見ることが出来ます。そういったことがあるのも、人が花に特別な思い入れを託そうとするからにほかなりません。

 

ちなみにネットで調べたところによるとヤグルマギクを青く彩色した豪華版(?)も存在するとのこと。ぜひ見てみたいものです。