滞仏植物記

植物のかたちを研究する学生のフランス滞在日記

あめりおれ

今朝、意味がわからないフランス語の単語がまだ微睡んでいる頭の中に浮かんできて目が醒める。ふつふつと遠くからにぎやかな声が漏れてくるようでおもしろい。これは最近フランス語になるべく触れるようにしているからだろうか。少しづつ簡単な表現を試せるようにもなってきた。これまではどうしてもコーヒーブレイクのとき「エクテ(リスニング)」の時間になってしまっていたが、話す相手ができたのがうれしい。それでもまだまだ会話としては成立しないから、気長に付き合ってくれる同僚がありがたい。そういえば昼食のときにも「フランス語が少しづつよくなってきた」と言ってもらえた。お世辞かもしれないが少なくと皮肉ではないとよいと思う。

ミーティングでは進捗を見せた。ミーティングは慣れない。彼らはつねにすごい速度でしゃべり続けているし、論理的に順を追って話そうとすると「これもこれも」と思っているうちに言葉が出てこなくなる。困った。それでもこのひと月の進展をそれなりに評価してくれたようだった。「アイディアがあって印象的な学生」というコメントはきっとお世辞かなぐさめかも知らないが、いずれにせよかなりの程度手を差し伸べてくれるので心からありがたい。ただ、真新しい環境や考えに触れてちょっと風呂敷が広がりすぎ、具体的な進め方が見えづらくなっているかもしれない。「広い視野は大事だが、時には選択的に集中するのも大事だ」ともアドバイスされたが、思えば釘を刺されたのかもしれない。そうでなくとも切実なところ、幾何学や論理学に慣れないために、具体的な進み方が分からなくなりがちである。ちょっと進んでは止まって人に尋ね、もう少し進んではまた訊いて、の繰り返しである。C'est la vie !

アグロエコロジー

唐突ですが、アグロエコロジーという言葉を聞いたことはあるでしょうか?

ぼくは前にちらっと見かけたことがあった(たしか博士課程入試の頃でした)のですが、その時はろくに調べないで放置してました。

 

この記事のきっかけは、いま滞在している INRA がこの「アグロエコロジー」を方針の主軸の一つに掲げてると聞いたことです。しかもお世話になっているもう一つの機関である CIRAD も、このアグロエコロジーを推進しているようです。「アグロ」と「エコロジー」の組み合わせは一見ありふれているように思えますが(そういえば日本でのぼくの専攻名は Agricultural and Environmental biology なので惜しい感じですね)、一語にまとまっているのは意外に「そういうのもあるのか」という感じ(そして「ああ、どうせまたそういうやつね」とも思ってしまう感じ)。

 

https://en.wikipedia.org/wiki/Agroecology

 とりあえずWiki

 

さらに日本語で検索をかけてみました。

ところが、引っかかってくるのは特定の企業(?)サイトがメインで、あとは雑誌『ふらんす』の特集告知(多分ぼくはこれを読んでいた)とか、ちらっと単語が出てくるだけのものだったりであまり芳しくありません。くだんの企業サイトの説明はどちらかというと緑の革命とか遺伝子組み換えの「欠点」ばかりで、やっぱりアグロエコロジーは分からない。そのなかでは以下に引用するブログは比較的バランス取れた記事だと思うのですがいかがでしょうか。

 

tobitate-sanfrancisco-cuba.hatenablog.com

agroecology.seesaa.net

 

結局、個人的に一番簡潔で分かりやすかったのはやはり INRA と CIRAD の記事でした。

institut.inra.fr

En tant que discipline scientifique, l’agroécologie est souvent présentée comme le croisement des sciences de l’écologie et de l’agronomie en appui à la conception et à la gestion d’agro-écosystèmes durables. Elle mobilise également les sciences économiques et sociales pour concevoir des systèmes multi-performants et accompagner leur déploiement par des politiques publiques et d’accompagnement adaptées. Elle dessine ainsi un nouveau paradigme pour concevoir des systèmes alimentaires durables.

「自然科学の分野としては、アグロエコロジーはしばしば生態学と農学の交差点とみなされ、持続可能な農―生態システムの構想と運営を立脚させます。さらに多角的に機能するシステムを構想し、適切な公共政策と援護によりその展開を実施させるために、経済学および社会科学をも動員します。このようにアグロエコロジーは持続可能な食糧システムの構想のための新たなパラダイムを描き出します。」

(フランス語からざっくり翻訳したので精度は期待しないでください。意訳も含みます。より良い訳が作れる方が見ていたらぜひアドバイスを…)

この後に5つの研究方針が続きます。

  • valoriser la biodiversité et les régulations biologiques
  • optimiser les grands cycles biogéochimiques
  • gérer les paysages et les territoires
  • évaluer et reconcevoir les systèmes de production
  • repenser les systèmes d’innovation et accompagner les transitions

「生物学的調節機構と生物多様性の価値の引き上げ/生物地質化学的循環の最適化/領土と景観の管理/生産システムの評価と見直し/イノベーションシステムの再考と(アグロエコロジカルな状態への)移行の実施」

(ここでも上と同じ泣き言が付きます)

 

なるほど得心がいきました。フランスのスーパーには BIO マーク(国認定の有機作物由来食品の証)つきの食品がずらっと並んでいます。ここからは有機農業への関心が高いことがうかがえますが、アグロエコロジーは単なる有機栽培を超えていわば「より一般的で柔軟なアプローチ」で農と自然の調和を構想していると言えるのではないでしょうか。そうだとすれば個人的にはスマートな主張だと感じるし、共感する部分も少なくありません。先日紹介した Pl@nt net もそういった背景で眺めると一貫性を感じます。

shiryukirie.hatenablog.com

たしかに、日常生活にかけがえのない「食」と生態系のあいだに連続性があると捉えれば、こういったプロジェクトは市民主体でなされる必然性があります。このプロジェクトとアグロエコロジーの関係は今後掘り下げても面白いかもしれません。

 

……翻って、日本語の記事をまた探してみると、どうも善悪二元的というか、軽薄というか、「貧しい議論だなあ」と感じるものも目につきます。アグロエコロジーというより「エコ」全般について気をつけねばならない点なのかもしれませんが、「自然の複雑さ」や「自然に任せることによって得られる豊かさ」を賛美している割には、内容は単調かつ力任せということもしばしばのようです。少なくとも INRA の記事をざっと読む限り、必ずしも既存の農業システムを「仮想敵」に仕立てる必要はなく、現状の評価に基づく仮説から長期スパンでの「最良」の選択肢をとるというのがその規範となるはずだと思うのですが…。

 

最後は皮肉になってしまいましたが、なんにせよ、こういう情報は少しでも耕していくべきでしょう。またいずれ「アグロエコロジー」については取り上げたいと思います。

ひと月目のまとめ

フランスについてひと月が経ちました。あっと言う間です。思えば到着したころにはぎらついていた日差しも、このところ和らいできたように感じます。そして今回の滞在はだいたい80日くらいなので、折り返し地点もそう遠くないことになります。

このひと月は INRA/SupAgro での研究を中心に進めてきました。まだまだこれからの研究ですが方向性は気に入っています。一方で難しい部分も次第に見えてきました。腰を据えてじっくりそれらを対処していくのがこれからのフェーズになると思いますが、加えてこの後は試料採取というもう一つの重大なミッションが待っています。果たして無事に成果を日本に持ち帰れるのか大変不安ですが、フランス人がよく呟く "Pas grave" の精神で時には図太くいきたいです。 ああ、でも検疫が不安……それからフランス国内の知人数人に会いに行く予定です。そのほかにも論文やら企画やら慌ただしい毎日ですが、南仏の雰囲気にときに癒されながらしっかりと励みたいと思います。

 

次回は少し植物学関係のことを考えてみたいと思います。

映画鑑賞

土曜日、『この世界の片隅に』のフランス語版(”Dans un Recoin de ce Monde”)を購入した。家主ご夫妻に見せたところ、日曜の夜に見ましょうということになる。日曜の夜、ご夫妻(と途中までお客さんがいた)と鑑賞会する。

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この作品に出合ったのは去年フランスを訪問した時のエールフランスの機内だったので、フランスの人と一緒に見れるのはなんだかご縁を感じる。偶然にも来月ご夫妻は日本へ旅行するらしく、広島もそのプランに入っているらしい。それにもまたご縁を感じる。見終わった後、「オヤスミナサイ」と日本語で声を掛けられたのがなんとなくうれしかった。

関数ひとつ + 「紀行」のはなし

今日は INRA/SupAgro で作業。思うように捗らず、結局簡単な関数ひとつ足しただけ。わずかでも無いよりましと思って良しとする。肝心の難しいところのアイディアはもう少しで浮かんできそうな気もするが、どうなるだろう。いずれにせよ20日にミーティングがあるので、それまでにやってきたことと考えていることをまとめておこう。全体としては面白いところの多いテーマだが、公開されているここに書けないのは残念だ。やりがいのある仕事なので色々書きたいのだが。

 

昨日の帰りに小さくて安いワインを買ってきた。これから飲もうと思う。

 

* * *

 

このブログをある方に読んでもらったところ、頂いた短いコメントの中に「紀行」という表現がありました。確かにこれは紀行ものの類に含まれるでしょう。なるほどと思いました。

それにこれまで気付かなかった理由の一つは、あわよくば後々このブログを次のようなテーマでまとめた忘備録として残していく計画——あるいは打算があったからでしょう;

植物、植物学、園芸学、農学、博物学(含む「驚異の部屋」)、市民科学、「理科趣味」、その他…

耳慣れない言葉もあるかもしれませんが、今はそれはそれということで置いておいてください。それぞれのキーワードに対する思い入れはいずれ説明するかもしれません。

もうひとつの理由はタイトルの「滞仏」は朝永振一郎博士の『滞独日記』からとったから、という経緯にあります。これも言ってみれば一種の旅行記…でもあるのですが、どちらかというと(少なくとも岩波文庫に収録されている抄を読む限り)挫折や不安と格闘する若き日の朝永博士の姿が印象的な一篇で、あまり「旅をしている」感はないです。のちのノーベル賞受賞者もかつては大いに悩み苦しみぬいた時代があったのだ…という点に一種の慰撫を覚えて付けたタイトルであるわけですが、「紀行」という響きもみずみずしい感じで今にして思えばいい選択肢でした。「仏蘭西植物紀行」とか。ちょっとレトロな表紙で本になってたら見栄えがしそう。

 

Pl@ntNet: 植物学と市民科学

先日「レビューをする」などと書きました。やるからにはあるテーマについて総合的網羅的に書こうと思いましたが、今回はとても難しそうです。これから書くのはまったく網羅とは程遠い記事ですが、それでも人によっては有益なものがあるのを期待します。

 

いま滞在している INRA と CIRAD のプロジェクトで面白いものを教えていただいたのでご紹介します。Pl@ntNet という市民科学プロジェクトです。

Home - Pl@ntNet

身近な植物を撮影し、植物を自動で判別してくれるアプリを使って情報をまとめていく…というのがその骨子です。いまどき同様のアプリはいろいろとあると思うのでそれらの比較などもしておきたい…と思ったのですが、それはまたいずれ。

 

たとえば学校(研究所)からの帰り道に咲いているこういう花を撮影し、

 

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アプリ上で選択・送信すると…

 

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「ロシアンセージ」とのこと。ラベンダーに似た草姿、ふわふわした紫の花に、灰緑色の切れ込んだ葉。確かにロシアンセージのようです。(間違ってたら教えてください。その時はこのアプリもぼくも勉強不足ということです。)

このアプリを使ったプロジェクトは現在20を数えるそうですが(それぞれの研究の内容までは今のところ追えていません。)、残念ながらアジア地域の地理学的プロジェクトはその中にはまだ無いようです。

 

それで、この記事を書こうという気になったきっかけに移ります。つまり、実際にこうした市民科学プロジェクトはどの程度「役立つ」のか?

別に役に立つことが全てではないですし、それで全く問題ない、というかそのほうが豊かな世界の実現に貢献しているなあとぼんやり思います。むしろここで問いたいのは例えば「音楽のように役に立つ」くらいの意味(イデオロギーとか広告的な役割ということではないですよ)でこういう「教育的」なアプリが受け入れられるのだろうか、ということです。もちろん、植物マニアとか愛好会的な集団はあると思います。あるいは園芸好きとか観葉植物コレクター。ですがその人たちとておそらく種同定にすべてをかけてはいないと思いますし、むしろ機械だよりではなく万巻の書と自らの鑑識眼をもって種を見極めたい、というこだわりのある人も少なくないのでしょうか。そうなるとぼくの貧弱な想像力では「夏休みの宿題」的な一過的かつ「子供向け」な活動を思い浮かべてしまうのです。

「教育的」「夏休みの宿題」「子供向け」というのもそれ自体でもちろん悪いことではありません。ですが、継続的かつ満足度の高い活動にしていくためにはモチベーションの高い参加者が重要であり、そうした潜在的な参加者を見つけるには少し間口が狭い…というか部外者に魅力が伝わりにくいのではないか?と気になってしまいます。もしかすると国や地域によりそうした「ボランティア的」な活動あるいはそもそも博物学や市民科学そのものに対する考え方が大きく違っているのかもしれず、ぼくとはこうしたアプリに対する受け取り方が全く違っているのかもしれません。

それに実際、ぼくはこれらのプロジェクトの状況を全く知らないで勝手な妄想を膨らませているだけですから無責任なものです。とはいえ、市民科学的な存在はしばらく前から気になっているので、そういったところどうなんだろうかとついつい考えてしまいます。いずれ色々な人の意見を聞きたいところです。

 

ちなみにフォローするわけではありませんが、植物の名前がぱっとわかるのは(だからどうということはないにせよ)便利ですし、なにより結構楽しいです。植物学の興味深くて楽しい、そして幅の広い展開を期待します。おすすめです。

 

コーディングの日+予告

今日はCIRADにて作業。共同研究者と一緒にソースコードを書いていく。一緒にと言っても、もっぱら共同研究者がどんどん書いていく。ぼくは仕様や設定についてあれこれ伝える。さすがに開発環境の使い方を先週齧り始めた人と制作者では全く比較にならない。が、いくつか宿題も出たので明日はがりがりと進める予定。実力をつけるのにこんなに恵まれた条件はない。ただ、最近英語も聞き取りづらくなってきた。話が込み入ったり長くなってくると集中力が切れてくるらしい。言語的体力をつけたい(そうすれば、もっとどんどん進められると思う)。

 

明日は京都で数理生物学のシンポジウムがある。ぼくも演題を登録していたのだが、この渡仏が重なってしまったので九大の共同研究者(事実上のスーパーバイザー)に代理を引き受けていただいた。大変感謝。他の発表も含めていろいろと話を聞くつもり。楽しみ。

 

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最近は内省が多くなってきて申し訳ないので、次辺りは何か研究関係でレビュー的なことをしようかと思います(未定)。それから、最近可読性などの事情で不定期に記事の編集をしていますのであしからず。