滞仏植物記

植物のかたちを研究する学生のフランス滞在日記

ドイツ植物学史との遭遇

このところ研究で忙しく筆が滞りました。おかげさまで来週の進捗報告には少し成果を見せられそうです。この先もうまくいけば植物形態の研究としては割と新しいアプローチを打ち出せるのではないでしょうか(と言うのはぼくの弁ではなく指導教官のヌヴ氏)。

 

さて、今回もぼんやりと通常運行です。

研究を進めるにあたって我々のような博士学生はいろいろ論文を読むわけですが、今日読んでいた論文はなかなか目を引きました。もちろん提案手法やその結果もですが、特に「おおっ」と思ったのが  introduction (序論)の先行研究紹介です。…とは書くのですが、あえて論文の URL は特に貼りません。あまりにマニアックだからです。そして多分、多くの人にはあまりぱっとしないと思います。まずはグリーゼバッハ。続いてザックス。さらにアイヒラー、ゲーベル…と名前が出たのをみて(実は『ファウスト』の呪文ではないのです)、個人的には「おおっ」が「おおおおぅ!」に変わります。なんだかいいものを読みました。今挙げた名前はいずれも19世紀のドイツの植物学者たちです。冒頭で引かれている論文にこれだけ19世紀の論文がならぶ、という状況は今日の生物学では決して多くありません。繰り返しますがなんだか得した気分です。

ちなみに、自分でそういう古い文献を探す場合、Biodiversity Heritage Library がおすすめです。

www.biodiversitylibrary.org

このサイトでは生物学にまつわる古い文献が無償で読めます。PDF で読むことが出来るのでとても便利です。

話が逸れました。

といっても、生物学を齧ったことがなければ名前はおろかその研究成果もピンとは来ないでしょう。かろうじでアイヒラーが「顕花植物と隠花植物」という、もしかすると小学校くらいで登場したかもしれない分類に貢献したくらいでしょうか(そして、それすらあまり……と感じる人が多いと思います)。しかし世の中でノーベル賞だなんだと取り沙汰される基礎にはこういう人びとの——ここで挙げた「無名の大御所」たちと、その弟子たち——の活躍があってのことで……という説教は今のぼくには実にどうでもいいのです。ただこの名前の連なりを拝めた、という偶然に「今日はいいことあったなあ」と清々しい気持ちでいっぱいなのですから邪魔はしないでいただきたい。ブログ読者との共感可能性は限りなく低いですが、それも関係のないことです。いや、ありがたやありがたや……

 

と、かようにぼくは植物学史好きです。ただし下手の横好きではありますから詳しくはありません。生物学史全般好きですが、どういうわけか特に植物学史はお気に入りです。

それから、生物学と歴史の間の関係についてはいろいろと考察もあり、いずれどこかに書きたいと思っています。一言で言えば岩波文庫版の宮沢賢治銀河鉄道の夜』において、「ブルカニロ博士」と思しき人物が読んでいる本をジョバンニに説明するあのシーン、あれに近い感覚と効用を覚えるというところでしょうか。