滞仏植物記

植物のかたちを研究する学生のフランス滞在日記

関数ひとつ + 「紀行」のはなし

今日は INRA/SupAgro で作業。思うように捗らず、結局簡単な関数ひとつ足しただけ。わずかでも無いよりましと思って良しとする。肝心の難しいところのアイディアはもう少しで浮かんできそうな気もするが、どうなるだろう。いずれにせよ20日にミーティングがあるので、それまでにやってきたことと考えていることをまとめておこう。全体としては面白いところの多いテーマだが、公開されているここに書けないのは残念だ。やりがいのある仕事なので色々書きたいのだが。

 

昨日の帰りに小さくて安いワインを買ってきた。これから飲もうと思う。

 

* * *

 

このブログをある方に読んでもらったところ、頂いた短いコメントの中に「紀行」という表現がありました。確かにこれは紀行ものの類に含まれるでしょう。なるほどと思いました。

それにこれまで気付かなかった理由の一つは、あわよくば後々このブログを次のようなテーマでまとめた忘備録として残していく計画——あるいは打算があったからでしょう;

植物、植物学、園芸学、農学、博物学(含む「驚異の部屋」)、市民科学、「理科趣味」、その他…

耳慣れない言葉もあるかもしれませんが、今はそれはそれということで置いておいてください。それぞれのキーワードに対する思い入れはいずれ説明するかもしれません。

もうひとつの理由はタイトルの「滞仏」は朝永振一郎博士の『滞独日記』からとったから、という経緯にあります。これも言ってみれば一種の旅行記…でもあるのですが、どちらかというと(少なくとも岩波文庫に収録されている抄を読む限り)挫折や不安と格闘する若き日の朝永博士の姿が印象的な一篇で、あまり「旅をしている」感はないです。のちのノーベル賞受賞者もかつては大いに悩み苦しみぬいた時代があったのだ…という点に一種の慰撫を覚えて付けたタイトルであるわけですが、「紀行」という響きもみずみずしい感じで今にして思えばいい選択肢でした。「仏蘭西植物紀行」とか。ちょっとレトロな表紙で本になってたら見栄えがしそう。

 

Pl@ntNet: 植物学と市民科学

先日「レビューをする」などと書きました。やるからにはあるテーマについて総合的網羅的に書こうと思いましたが、今回はとても難しそうです。これから書くのはまったく網羅とは程遠い記事ですが、それでも人によっては有益なものがあるのを期待します。

 

いま滞在している INRA と CIRAD のプロジェクトで面白いものを教えていただいたのでご紹介します。Pl@ntNet という市民科学プロジェクトです。

Home - Pl@ntNet

身近な植物を撮影し、植物を自動で判別してくれるアプリを使って情報をまとめていく…というのがその骨子です。いまどき同様のアプリはいろいろとあると思うのでそれらの比較などもしておきたい…と思ったのですが、それはまたいずれ。

 

たとえば学校(研究所)からの帰り道に咲いているこういう花を撮影し、

 

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アプリ上で選択・送信すると…

 

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「ロシアンセージ」とのこと。ラベンダーに似た草姿、ふわふわした紫の花に、灰緑色の切れ込んだ葉。確かにロシアンセージのようです。(間違ってたら教えてください。その時はこのアプリもぼくも勉強不足ということです。)

このアプリを使ったプロジェクトは現在20を数えるそうですが(それぞれの研究の内容までは今のところ追えていません。)、残念ながらアジア地域の地理学的プロジェクトはその中にはまだ無いようです。

 

それで、この記事を書こうという気になったきっかけに移ります。つまり、実際にこうした市民科学プロジェクトはどの程度「役立つ」のか?

別に役に立つことが全てではないですし、それで全く問題ない、というかそのほうが豊かな世界の実現に貢献しているなあとぼんやり思います。むしろここで問いたいのは例えば「音楽アプリのように役に立つ」くらいの意味でこういう「教育的」なアプリが受け入れられるのだろうか、ということです。もちろん、植物マニアとか愛好会的な集団はあると思います。あるいは園芸好きとか観葉植物コレクター。ですがその人たちとておそらく種同定にすべてをかけてはいないと思いますし、むしろ機械だよりではなく万巻の書と自らの鑑識眼をもって種を見極めたい、というこだわりのある人も少なくないのでしょうか。そうなるとぼくの貧弱な想像力では「夏休みの宿題」的な一過的かつ「子供向け」な活動を思い浮かべてしまうのです。

「教育的」「夏休みの宿題」「子供向け」というのもそれ自体でもちろん悪いことではありません。ですが、継続的かつ満足度の高い活動にしていくためにはモチベーションの高い参加者が重要であり、そうした潜在的な参加者を見つけるには少し間口が狭い…というか部外者に魅力が伝わりにくいのではないか?と気になってしまいます。もしかすると国や地域によりそうした「ボランティア的」な活動あるいはそもそも博物学や市民科学そのものに対する考え方が大きく違っているのかもしれず、ぼくとはこうしたアプリに対する受け取り方が全く違っているのかもしれません。

それに実際、ぼくはこれらのプロジェクトの状況を全く知らないで勝手な妄想を膨らませているだけですから無責任なものです。とはいえ、市民科学的な存在はしばらく前から気になっているので、そういったところどうなんだろうかとついつい考えてしまいます。いずれ色々な人の意見を聞きたいところです。

 

ちなみにフォローするわけではありませんが、植物の名前がぱっとわかるのは(だからどうということはないにせよ)便利ですし、なにより結構楽しいです。植物学の興味深くて楽しい、そして幅の広い展開を期待します。おすすめです。

 

コーディングの日+予告

今日はCIRADにて作業。共同研究者と一緒にソースコードを書いていく。一緒にと言っても、もっぱら共同研究者がどんどん書いていく。ぼくは仕様や設定についてあれこれ伝える。さすがに開発環境の使い方を先週齧り始めた人と制作者では全く比較にならない。が、いくつか宿題も出たので明日はがりがりと進める予定。実力をつけるのにこんなに恵まれた条件はない。ただ、最近英語も聞き取りづらくなってきた。話が込み入ったり長くなってくると集中力が切れてくるらしい。言語的体力をつけたい(そうすれば、もっとどんどん進められると思う)。

 

明日は京都で数理生物学のシンポジウムがある。ぼくも演題を登録していたのだが、この渡仏が重なってしまったので九大の共同研究者(事実上のスーパーバイザー)に代理を引き受けていただいた。大変感謝。他の発表も含めていろいろと話を聞くつもり。楽しみ。

 

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最近は内省が多くなってきて申し訳ないので、次辺りは何か研究関係でレビュー的なことをしようかと思います(未定)。それから、最近可読性などの事情で不定期に記事の編集をしていますのであしからず。

重陽(とくに何もない休日)

 金曜はブログを書いた後に研究所の同僚とその友人(以前東京にインターンシップに来ていた人たちだ)に飲み屋に誘われ、23時ごろまでビールを飲む。飲みながらフランス語を教えてもらう。親切でよい人たち。本当に楽しい時間を過ごした。

 結局、この週末は特に何もせず休息に充てた。買い物に行ったほかは少しモンペリエ大学植物園を散歩したくらい。土曜の夜に論文やらを書き進める。日曜は朝から教会の鐘がひっきりなしに聞こえてくる。静かで晴れたいい朝だが、ここではいつものことだ。日光が射さない日がなく毎日美しい。鐘の音を聞きながら少し書き物をする。

 その午後、オンラインで日本の友人たちと通話。いろいろ相談できたことで考えることが少し減る。思えばちょっとこんがらがってきすぎたのだ。論文のこと、植物採取のこと、サンプルの検疫のこと、いろいろな研究提案、企画のこと…。シンプルにしなきゃならない。それらのうちのある事柄については一緒に荷を担ってもらえたおかげで少しすっきりしたが、アタマの中の忙しさに変わりはない。彼らを信じてしばらくの間は務めて気にしない(気にしてもしかたない)ようにしようとおもうが、できるだろうか。またそのうちパラヴァスでも散歩しようかな。

今晩は九月九日で重陽節句だ。キクの品種の写真などみてぼんやり過ごそうと思う。

四半期

滞在三週目が終わろうとしている。約三か月の滞在を十二週と概算すれば、四分の一が過ぎたことになる。次の四分の一ではこちらでの研究を軌道に乗せ、研究室の人々とも色々話せるようになっていきたい(次第に、いっそフランス語が世界の公用語だったら話す言葉が一つ減るのに、と思うようになってきた。)

 

今週はとにかくいろいろなことが進んだ。週の頭には再びCIRADに行って、研究に使っていくツールを導入してもらった。少し触っているうちになんとなく掴めたような気はする。

一方で、木曜にはINRAの指導教官とミーティングして、少し方向転換を仄めかされた。要するに具体的な着手点としての研究テーマの設定を調整してほしいということだが、非常に幸いにして指導教官はオープンで朗らかな人物なので一緒に話し合ていけば大丈夫だろう。むしろいろいろ考えていてくれるようで恐縮なくらいである。そこでもまた新しいツールを教えてもらったので(先ほどのとは用途が違う。ある意味ではそれらのツール間の橋渡しをするのがぼくの仕事である)、今日いじってみた。

 

採取や、パリやトゥールーズ訪問の目途も立ってきた。滞在後半を含め見通しが次第に立ってきたと言えそうだ。だが先日やや憂鬱になっていたように、個人的なことも含めると見えなくなっていくこともある。行動とは別の行動の制約である。

 

とにかく次の目標は外国語と研究。研究は言うまでもないが、こちらでのテーマを軌道に乗せることと、もう一つの目標である植物採取を完遂するために検疫の件含め入念に準備を進めていくこと。外国語はフランス語をもう少し頑張って使っていきたいのと、英語は話す量が増えるにしたがって疲れて喋れなくなってきたのをなんとかしたい。

今週末はすこしゆっくりと休む予定。

 

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それにしても、このところ日本で災害が多い。よく研究所でもそのことについて聞かれるが、気になっている。

防犯意識

昼頃、作業しながら考え事。ブレヒトの『ガリレイの生涯』にこういうようなフレーズがある。「汚れた手のほうが、空よりましだ」。ガリレイそのものの科白ではなかったはずだが、彼の性質を表現する言葉だったと思う。なにか信念のようなもの、やる「べき」ことのために汚名を受け入れることは自分にも出来るだろうか。だとしても、その汚れはガリレイのそれと比べたらほんのささやかなシミに過ぎないだろう。それでもクヨクヨと憂鬱になってしまう。

いずれにせよ誠実に対応することだろう。たいていの場合、杞憂に終わるのは先刻確認済みだ。少なくとも一人で異端審問を受けるわけではないはずだから。

 

* * *

 

…というように真剣に色々考えるときもあります。もちろん、なにか明らかな「不正」に手を染めたわけじゃなく、友人との約束を反故にしないといけないかもしれない…ということで少し悩みました(この記事は投稿後に加筆修正されています)。が、そんな悩みを(悪い意味で)吹っ飛ばす事態が起きました。以下、むしろ「不正」の魔の手にかかりそうになった話です。

 

夕方の5時ごろに研究に勤しんでいると謎のSMSが。

「120ユーロの決済のため、以下のコードを誤確認ください」

何のことかと慌てました。それまで現地用のSIMフリー携帯には電話会社からのSMSしか来なかったので、一瞬ローミングか何かが知らないうちに入ってたのかとか、有料の何らかのサービスにアクセスしっぱなしになってたのかとかだいぶ不安になりました。

 

結局、研究所の職員さんにもSMSを確認してもらって「なにも買ってない」ことを伝えると、おそらく架空請求的な詐欺だろうとのことでした。そういえばその前の日に知らない番号からかかってきていて、誤って掛けなおしのボタンを押してしまったのでした。その時はすぐさま切ったのですが、あとから調べてみると「警戒度80%」の要注意番号で、これまでもそういった詐欺に使われてきた前例があるようです。多分、うっかり掛けなおしてしまったときにこちらの番号が知れて、それでそういったSMSを送ってきたのだと思います。もちろん、即ブロックしました。みなさまもゆめ気を付けなされますよう。

 

街を歩くーLes estivales, ファーブル美術館, Palavas-les-Flots

 今回はばっちり「観光」的な内容でお送りします。

先週、このブログで「les estivales」の話題を出しました。

その時は疲労のせいにして肝心の会場までは入らなかったのですが、2018年最後の機会となる今回はしっかり中を見てきました。

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les estivales の様子。あちこちに出店や屋台が出ています。

 

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ここモンペリエはワインの生産が盛んなラングドック地域に属しており、いくつもの生産者、すなわち「ドメーヌ」が存在しています。実際、いまぼくがお世話になっている研究機関でもワインのプロジェクトはいくつもありますし、アメリカとの国際的な協力によりワインの壊滅的打撃を乗り越えた…といったエピソードも小耳にはさむことがありました。les estivales では多彩なドメーヌが自分たちの自慢の製品を引っ提げて代わる代わる出店していて、5ユーロ支払うことでグラス2杯をそれぞれ好きなドメーヌの屋台で継いでもらえます。

 

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海がすぐ近くですから、この牡蠣はおそらく地元のものでしょう。6個入り、とあったのですが7個あるのに食べ始めてから気付きました。おまけしてくれたのでしょうか?

 

気付いたこととして、食べ物の屋台はスペインの料理が多かった印象を受けました。モンペリエはパリに出るよりもスペインとの国境を跨ぐほうが近いですから、その影響かもしれません。文化的にもひょっとするとスペイン北部のほうが親和性がある…なんてこともあるのかもしれません。

 

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家路。夏の金曜の夜の間だけ現れるというのがノスタルジックでちょっと幻想的でした。

 

さて、お次はコメディ広場近辺の探索です。こちらはファーブル美術館。

画家フランソワ=グザヴィエ・ファーブルのコレクションをもとに1828年に開館したそうです。http://museefabre.montpellier3m.fr/(フランス語です)

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看板がよく見えないのでもう一枚。

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日本でメジャーな作品はそれほど多くないのですが、作品数はかなりあり見ごたえがあります。いきなり保存修復のコーナーから始まるのはちょっと意外というか、攻めてるなあと感じましたが、ぼくは割と興味ががあるので結構楽しめました。

ここにある作品はただ産み落とされたまま放っておかれているわけではなく、プロフェッショナルたちによって見守られ継承されて、初めて観客である我々がそれらを見、なにがしかの鑑賞体験を得ることが出来るのだ…というメッセージを感じるというか、「時間に対する敬意」を感じるからです。作品を介して数世紀の時間を超えた対話(のようなもの)の機会を与えてもらっているという——いったい誰と、あるいは何とかはわかりませんが——ことをそれとなく示されたようでした。

 

コメディ広場近辺でもう一つ。ポリゴン Polygone の存在はここで生活するうえで非常に心強く思いました。大型ショッピング施設でなんでもそろいます。今後も幾度となくお世話になると思います。もしモンペリエに長期滞在する方は早めに一度行くと何かと安心できると思いますよ。

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 最後はすこし市街から離れます。美しい海を体験できる Palavas-les-Flots です。

https://www.montpellier-tourisme.fr/Preparer-Reserver/Decouvertes/Escapades-en-region/Plages/Palavas-les-Flots

トラム4番線とそこから出ているバスを乗り継ぐことで1時間弱でたどり着けます。

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ジブリアニメに出てきそうな港町。観光客でにぎわっています。

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磔刑に処されるキリストの像。

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浜まで出ればもちろん泳ぐこともできます。

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船の合間には魚の影が。

 

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というように、週末は満喫させていただきました。

研究の毎日もとても楽しいのですが、こういう心和む体験を蓄積することも滞在の総合的な豊かさを高めるために不可欠だと思います。本当に良い体験をしました。